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ブラックジャーナル

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2016年05月06日
ポジティブ

「勤務間インターバル制度」導入の背景は?

フジテレビ「ホウドウキョク」のニュースプログラム「あしたのコンパス」においてコメントした、「勤務間インターバル制度」導入の背景と見通しに関する論点と意見詳細

政府は「一億総活躍社会の実現」に向けて、働き方改革を重視して対策を進めている。
安倍首相自身の強い意志によって、政府がこれまで一度も明言してこなかった「総労働時間抑制等の長時間労働是正」を取り上げると宣言している。

総活躍会議の委員に確認したところ、事務方の官僚も、「今回の方向性は総理自らが決めたので」ということで非常に力が入っているとのこと。

従前、長時間労働の是正政策といえば、「時間外割増率の引き上げ」が議論の中心であった。
しかし、「働く人の心身の健康を保持する」という労働安全衛生の趣旨に照らせば、「労働時間そのものに対する上限の設定」こそが、より実効性の高い規制として検討されるべきである。

実際、日本では週40時間、1日8時間という労働時間規制は存在する。
しかし、36協定の特別条項を労使が合意すれば、月45時間の上限以上の「青天井」に残業時間を課すことができる。
月80時間からの残業は「過労死ライン」とされるが、80時間を超えた協定を結んでいる企業が7割。
この特別条項があれば、月200時間超の残業を課すことも可能な「残業青天井のザル法」なのである。

「勤務間インターバル規制」は、当日の勤務と次の日の勤務の間に決まった休息時間の確保が義務づけられることから、導入すれば過重労働の防止と、従業員の疲労回復、心身負担軽減につながるものと期待されている。

労働者の勤務時間、現状は?

「他国と比べた場合、日本の労働時間は年々減少傾向にあり、1990年には年間2,000時間代だったのが、直近の2013年には1,735時間の水準まで下がってきている」(国際労働比較2015年度版(労働政策研究・研修機構)と喧伝されている。

しかし、フルタイムとパートタイム労働者で分けて年間労働時間を推定してみてみると、パートタイムの年間労働時間が約1,000時間なのに対して、フルタイム労働者は約2,000時間。1990年とほとんど変わっていないことがわかる。

労働時間が総じて減っているように見えているのは、パートタイム労働者の割合が増えたことによるもので、依然として、わが国における長時間労働の問題は消えていない。

さらに細かい数字として、上記統計にはサービス残業分が含まれていない。
総務省統計局の「労働力調査」では、全国で約4万世帯の約10万人に聞き取りをして、平均週間就業時間を発表しており、こちらにはサービス残業分も含まれると想定される。

2015年度の同調査によると、2014年の全産業における平均年間労働時間は、男性(正社員と非正規社員合計)の場合年間2,278時間であった。とすると、男性正社員に限れば、これ以上に働いていることが想定できる。

制度導入で企業への影響は?

日本でもすでに、労働組合の主導で勤務間インターバル規制の導入に向けた取り組みが進んでいる。
とくに積極的なのが、IT、ネット関連などの情報サービス産業。24時間対応を求められる仕事が多い業界で、以前から長時間労働や深夜にまで及ぶ不規則勤務の解決が課題であった。一部では「きつい・厳しい・帰れない」の“新3K”職場の典型ともいわれ、離職率も高止まりしている。

そんな中、産業別労働組合の「情報労連」では2009年の春闘から「可能な組合においてはインターバル規制の導入に向けた労使間協議を促進する」ことを方針に掲げている。
同年、傘下の「全国情報・通信・設備建設労働組合連合会」(通建連合)に加入する12社とKDDIで導入が実現し、翌2010年にはさらに通建連合加入の2社が導入を果たした。

一方で、まだまだ慎重意見も多い。時間外労働を前提にしている企業が多く、経営者側からは

「現場に馴染まず、事業活動の停滞や雇用機会の喪失を招きかねない」
「1日単位での一律規制は現在の職場の実態に合っていない」
「まだまだ導入している企業も少ない。現状でも法的規制があるわけではなく、
 個別企業のニーズに応じて労使交渉に委ねられるべき」

といった意見がある。
また労働者側にも『残業代が減るのではないか』と捉え、インターバル規制の必要性が浸透していない職場もある。
導入によって生産性の向上にもつながるなど、認識を改めることが必要である。

制度導入で勤務環境は改善するか?

KDDIは昨年から組合員に対し、就業規則によって、「勤務終了後から次の勤務開始時まで、最低連続8時間の休息をとること」を義務化。さらに健康管理上の指標として、全社員を対象に、「連続11時間の休息を設けること」を安全衛生規定で定めた。

社員のパソコンの記録で、勤務時間を把握し、本人だけでなく上司も社員が働き過ぎていないかを確認できる。勤務と勤務の間隔が11時間を下回った日が月に11日以上あった社員には、注意を呼びかけ、健康状態をチェックする。

導入前は「8時間でも空けるのは難しいのでは」との声があった。しかし問題なくスタートし、健康状態をチェックする対象者も月20人〜30人出て、これまで見落とされていた過重労働が目に見えるようになった。

勤務の工夫などで、総労働時間に変更はない。同社人事部の茂木達夫給与グループリーダーは「健康管理としても成果が上がっているとともに、働き方を変えるきっかけとなり、より短い時間で成果を上げられるようになれば」と期待を込める。

インターバル導入企業ではないが、実際に経営努力によって働き方改革を実現できた企業の実績が明らかになり始めている。

社員数100名規模のITシステム開発企業では、残業削減と労働時間管理を徹底した結果、月平均の残業代は124万円⇒46万円と63%削減、売上は前年比114%UP、営業利益前年比162%UPという実績がある。
東京都ワーク・ライフ・バランス認定企業に認定され、採用にもプラスの影響が出ている。

また、長時間労働がデフォルトのイメージを持たれている大手人材派遣企業においても、経営トップが「時間当たり生産性」にコミットして改革を進めた結果、深夜労働時間は86%削減、業務生産性は4.6%向上、市場成長率が6%のところ、同社の成長率は12%、そして女性従業員の出産数も1.8倍になった。

「ファザーリング・ジャパン」による「長時間労働アンケート2016」によると、回答した109社の9割が、「労働時間の全体的な抑制の旗ふりを政府に期待している」ことが明らかに。「長時間労働是正について、取引先や競合他社だけでなく、社会全体で取り組めば、貴社も取り組みやすいと感じますか?」でも94%がイエス。同じ業界でほかの会社がもっと夜遅くまで対応していたら、そちらに仕事をとられてしまうかもしれない。やめたいと思っても、「実はあまり儲からない」「実はあまり生産性が高くない」長時間労働合戦に陥っているのが現状。日本全体で取り組む必要があり、それには政府の力が必要なのだと企業も思っていることが明らかである。

社員の健康維持のためだけでなく、次世代育成や女性活躍推進のためにも、労働時間の法規制は有効。

過労死等防止対策推進法が制定されるなど、社員の健康を守り、ワーク・ライフ・バランスが確保できる働き方の実現は喫緊の課題であり、労働組合を持たない企業や、従業員の少ない企業こそ、企業ブランドを高めるために有効である。助成金が得られるタイミングですぐに着手して、時間外労働や休暇、休息など、社員が健康に働き続けられるためのルールづくりに反映させていくことが望ましい。

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