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2016年04月08日
ポジティブ

日本IBM、イメージと実態の大いなるギャップ

日本IBM、イメージと実態の大いなるギャップ

 

「日本IBM」という会社にどのようなイメージをお持ちだろうか。

「就職人気ランキング上位企業」
「業界大手で、外資系ながら日本的な安定感をもった会社」
「堅実な業績」
「人材輩出企業」
「高収入でスキルも得られる」…

私自身が就活生だった18年前、同社は光り輝くブランドであった。
そして現在。同社にはイメージ通りの面と、そうではない面がある。
まずはその乖離からみていきたい。

「就職人気ランキング上位企業」としての日本IBM

 

手元に、1976年度入社以降からの「就職人気企業ランキング」があるが、
データが残っている限り、同社はほぼ毎年のようにトップ10位以内にランクインしている。
しかし直近では、2002年度入社組の「理系5位」にランクインしたのを最後に、現在まで
トップ10圏内に返り咲いていない。

総合ランキングからは姿を消したものの、「IT系企業人気ランキング」とか
「女性が働きやすい会社ランキング」といった個別の指標を基にしたランキングでは
依然根強い人気を誇っている。

「人材輩出企業」としての日本IBM

人材輩出については、実績だけをご覧頂ければ一目瞭然だ。

江崎玲於奈 ノーベル物理学賞受賞、教育改革国民会議座長、横浜薬科大学学長。
元芝浦工業大学学長、元筑波大学学長、
倉重英樹      シグマクシス代表取締役CEO、三菱商事特別顧問。
元RHJインターナショナル・ジャパン会長、元日本テレコム社長、
元IBMビジネスコンサルティングサービス会長、
元プライスウォーターハウスコンサルタント会長兼社長
元アイ・ティ・フロンティア取締役会長
北城恪太郎 日本IBM最高顧問、国際基督教大学理事長。
元経済同友会代表幹事、元IBM AP President
佐野力 元日本オラクル会長
新宅正明      元日本オラクル会長
玉塚元一 ローソン代表取締役会長CEO、リヴァンプ顧問。
元ファーストリテイリング代表取締役社長兼COO、元ロッテリア会長
(敬称略)

上記以外にも、東証一部上場企業の社長クラスがゴロゴロ存在しているのだ。

実際は12期連続減収、トラブル続出の問題企業

では同社は、「大手安定企業」で「業績好調な優良企業」なのだろうか。
答えは「否」である。

同社の2011年の売上高は8,681億円、経常利益で940億円、当期純利益は272億円だ。
これだけを見れば明らかに「黒字大企業」なのだが、経年変化を見なければいけない。
2010年度は、売上高が9,377億円、経常利益は1,242億円、当期純利益は773億円で
あったから売上高では前年比7.4%減、最終利益では前年比64.8%減の「減収減益」だ。

しかも、2001年に過去最高の売上高1兆7,075億円を記録して以来、12期連続で
売上高は下降しており、この10年で売上はちょうど半分になっているのだ。
同様に営業利益や経常利益も半分。最終利益については約5分の1となってしまっている。
とても、業績好調といえないことは明白であろう。

さらに、あまり大きく報道されていないが、日本IBM関連の事件は結構多く存在
しているのである。2006年以降で、日本IBMが訴えられたり、事件の主体となったり
した代表的な事例をみていこう。

日本IBM関連の事件

 

<2006年>
・会計検査院による検査で、日本IBMが独立行政法人情報通信研究機構から
受託していた研究2件に関し、実際には従事していない研究員の労働時間を含め
人件費を請求していたと指摘を受ける

<2007年>
・東京リース株式会社が、販売代金153億4100万円の債務履行と遅延利息の
支払いを求め、日本IBMなど4社を東京地裁に提訴
・ソースネクスト社が、ホームページ・ビルダーのライセンス供与に関して
契約違反として提訴。2008年7月に一部和解が成立

<2008年>
・スルガ銀行が「日本IBMの債務不履行によりシステムが完成せず開発を中止
せざるを得なくなった」として111億700万円の損害賠償訴訟を起こす。
2012年3月、東京地裁はスルガ銀行の訴えを認め、日本IBMに約74億1千万円の
支払いを命じる

<2009年>
・福岡銀行で前年に発生したIBM製基本ソフトウェアのバグによるシステム障害に続いて、
今度は日本IBM保守要員の作業ミスが原因でシステム障害が発生。
福岡銀行が日本IBMに対して損害賠償を検討中と報道される
・2008年に行われた、「3ヶ月で1,500名の社員を退職させる」大規模な退職勧奨プログラム
の中で、上司による人格否定、威嚇行為、誹謗中傷などの人権侵害を伴う組織的な
退職強要があったとして、社員4名が「人権侵害を伴う退職強要の差し止め」と損害賠償を
求めて提訴

<2010年>
・雑誌「プレジデント」5月3日号の特集「働きがい」で、
「IT業界部門の働きがいワースト企業」と報道される
・ゆうちょ銀行で発生した「民営化後最大」といわれるシステム障害は、
IBM製磁気ディスク装置の制御プログラムのバグによるものとして、
ゆうちょ銀がIBMへの損害賠償請求を検討中と報道される

<2012年>
・最高顧問の大歳卓麻氏が、一身上の都合による退職直前に東京都迷惑防止条例違反
(盗撮)容疑により警視庁により取り調べを受けていたことが報道される

いずれも不名誉な事件ばかりだ。しかも、これらは微妙に相互関連している。
それは「大歳体制によるひずみの表面化」といってもいいかもしれない。

「大歳体制によるひずみ」とは?

 

大歳氏が日本IBM社長に就任したのが99年。
08年に会長兼務となり、09年から会長。12年5月に最高顧問に就任している。

そしてこの大歳氏こそ、「日本IBMをブラックにした張本人」と言われているのだ。
実際、報道されている不祥事はこの時期と合致している。

日本IBMは大歳体制下の04年、人事業績評価制度として、従業員個人の目標管理型
業務評価制度「PBC」を導入した。

これは、業績評価上位から

「1」(最大貢献、10~20%)
「2+」平均を上回る貢献)
「2」(着実な貢献、2+と合わせて65~85%)
「3」(低い貢献)
「4」(極めて低い貢献、3と合わせて5~15%)

という5段階を設定し、ボーナス額や昇給額決定にあたって考慮する指標となるものだ。

そして08年、この指標に基づき、問題となった大規模リストラが行われることになる。
これはPBCで「3」「4」と下位評価された社員、1,500人を対象にしたものだ。

同社ではそれまでにもリストラを必要に応じて行っていたが、08年のケースでは
「前年同様に高収益を確保している中での、正社員への大規模リストラ」であったため、
世間の注目を集めた。

結局、会社として業績を「回復」させることはできなかったが、リストラは断行でき、
かろうじて「利益を死守」することはできたのである。

では、同社のリストラというのはどのようなものなのか。ここに実態を詳説しよう。

リーダーには『首切りノルマを達成せよ』とのお達しが

 

08年のリストラ時、同社の各部門長宛に配布された内部資料「Resource Action Program」
(下位15%、「3」「4」という低評価となった社員を退職に追い込むための指示文書)
の冒頭には、このように書かれている。

「予定数の達成が、我々リーダー一人ひとりのAccountability(結果責任)となります」

つまり、「売上ノルマ」ならぬ「首切りノルマ」を達成せよ、というお達しなのだ。
そして、このマニュアルに記された「社員を退職に追い込む方法」とは次のとおりである。

(1) まず会社がターゲット(対象者)を選定する
(2) 退職強要面談にあたる面接者をトレーニングする
(3) ターゲットと「初回面談」をおこなう
(4) 必要に応じて面談を重ねる
(5) 社長臨席会議で、進捗状況を確認
(6) 「退職意思確認」を経て「退職」へと追い込む

指示文書には、

「あくまで本人の”自由意思”に基づいて決断するように、コミュニケーションしてください」

と書かれているが、手順書を見る限り、自由意思で選べるゴールは「退職」しか存在しない。

従業員に退職を促すことを「退職勧奨」というが、法的には「人事評価が低かった」という
理由で退職勧奨すること自体に問題はない。そして従業員側でも、退職勧奨を受けたから
といって、それに従わなければならないという義務もない。

つまり、退職勧奨は「やるのも自由」だし、「断るのも自由」なのである。
問題になるのは、「本人が勧奨を断った後も、執拗に退職を迫る」といった行為があった場合だ。
これは違法である。

「執拗」というのがどんなレベルなのか、裁判でも判断が分かれるところである。
ちなみに同社で08年におこなわれたリストラで、従業員が「執拗に迫られた」として
提訴していた件については、先ごろ東京地裁の判断で「違法性はない」となった。

経験者によると、面談で次のような話を繰り返しされることでプレッシャーが与えられていたようだ。
果たして読者の皆さんは、これを「執拗ではなく、違法性がない」と捉えられるだろうか?

「あなたが今やっている仕事は来月からもうないよ」
「去年からのあなたの業績がまるで見えない。毎日何しに出勤しているんだ?」
「あなたの低い業績について、他のメンバーがなんて噂しているか知ってるのか?」
「今後何年居残ってもずっと永久にPBCは3以下しかつかない。この先毎年減給の繰り返しになるぞ」
「いくら探してもあなたを引き取るマネジャーがいない。長い間お疲れ様でした」
「あなた自身の今後のためにも、社外でのキャリアを探した方が絶対いいよ」
「明日、あなたの両親/妻にPBCの現況と今後のキャリアについて電話するけど、言いたいことは?」
「残っても降格・減給にもなるし、格段に厳しいノルマや処遇になるのがもう見えている」
「いまどき、これほどの割増金が出るのは当社くらいだ。しかも今回きり最後のチャンス」
「明日、○○という会社に面接にいってきなさい。これは業務命令です」
「社外でのキャリアを探す方が、あなたの場合の圧倒的に最善の決断だ」

ちなみに、このような「成績下位者への退職勧告」というシステムは、
外資系企業なら比較的広範にみられる光景、という印象があるかもしれない。
同時に、思慮深い方ならこんな疑問をもたれることだろう。

「日系企業も外資系企業も同じ労働基準法が適用されてるのに、
なぜ外資系だけクビにできるのか?」

それには、こんなウラがあったのである。

(次回に続く)

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