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ブラックジャーナル

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2017年09月01日
ポジティブ

脱税を指南する「B勘業者」に用心! 

あなたは「B勘業者」(B勘屋)という商売をご存知だろうか。

そもそも「B勘」という用語自体が聴きなれないかもしれない。これは「架空領収書」のことだ。もともとは税務調査官が用いる符牒のようなもので、調査官に見せる表の帳簿が「A勘定」、裏帳簿を「B勘定」と呼んでいたことに由来する。そのうち架空領収書のことをB勘と呼ぶようになったため、「B勘業者」とはすなわち「架空領収書を売る業者」のことを指す。

企業規模や業績に関係なく、経営者にとって「節税」は気になるテーマだ。しかしこれは、法律の範囲内(合法)であれば「節税」であって何も問題はないが、ひとたび法律の範囲外(違法)ということになれば「脱税」になってしまう。

今回は、節税(合法)であると認識していた節約手法が「実は脱税(違法)だった」と発覚したことで問題になったケースを採り上げる。本稿をお読みの方の中にも心当たりがある人がおられるかもしれない。問題が大きくなる前に、ぜひご留意のうえで然るべき対処をされることをお勧めしたい。

「節税」のための手口とは?

支払う税金を節約するための手段は大きく2つしかない。「売上を少なく申告する」のか、「経費を多く申告する」のかである。

しかし、売上を操作するのは明らかにリスクが高い。税務署が反面調査(取引先にも調査し、その取引が実際にあったかどうかを確認する作業)をおこなった場合、すぐに脱税が発覚してしまうからだ。

それに比べると、経費の水増しは比較的リスクが低いため、節税手法として頻繁に用いられている。
例えば、経営者が「自分で読む本を買った」場合や「知人と会食した」場合でも、それが何らかの仕事に繋がったという証明ができれば、かかった費用は経費として認められる。法人税は売上から経費を差し引いて残った所得に対してかけられるため、仮に資本金1,000万円で「課税所得500万円」の会社と、経費を目いっぱい使って「課税所得100万円」しか残らなかった会社では、法人税額はこんなに違うのだ。

「課税所得500万円」の会社の法人税額=75万円
「課税所得100万円」の会社の法人税額=15万円

ここで重要になるのが「領収書」である。もちろん、買い物や食事をしてお金を払えばタダでもらえるものだが、それが経費を使ったことを証明するために用いられ、節税にも有効だからこそ、売り買いの材料にもなるのである。

仕事に必要な経費を使い、正当に得た領収書であれば何の問題もない。しかし、「それ以上に経費を水増しして納税額を減らしたい」と考える経営者は確実に存在する。そんな邪な人物にB勘業者は近づき、「領収書を買い取りませんか」(=それによって経費を使ったことにして利益を圧縮し、大幅な節税をしませんか)と提案するのだ。

領収書を偽造したり、架空会社をこしらえて領収書を発行したりすれば一発でバレてしまい、重加算税の対象になってしまう。しかし、B勘業者が商品として持ち込む領収書は確実な「本物」なのである。

そのやり口として、既に倒産した会社や休眠中の会社で「発行したことになっている」領収書が用いられる。税務署が倒産した企業を調査したとしても領収書の正当性は追求できず、結果的に「本物」として扱われるからだ。中には、領収書を発行するためだけに会社を設立し、領収書を販売して一定期間が過ぎてからその会社を倒産させてしまう、といった事例も存在する。所在不明になってしまえば、どれだけ怪しい取引であっても税務署は追えないのだ。

B勘業者は、経費を水増ししたい企業に対して、額面の5%〜10%で領収書を販売する。1000万円の領収書を10%で買い取ってもらえれば、買い取った会社は1000万円分の経費水増しができて税金支払を免れ、B勘業者ほぼ原価ゼロで100万円の売上ができてしまう。実にボロい商売なのである。もちろん、こんなやり方は節税でもなんでもない。

「B勘業者」が提案した「節税」手法とは?

都内で太陽光発電事業を行うA社を経営するC氏は、B勘業者の手口にハマり、大失敗してしまった。

「確かに、結果的に脱税をしてしまったわけですから、悪いのは自分です。
でも、当時お願いしてた会計事務所に確認しても『問題ない』という見解だった。
最初からNGだと分かってれば、やってませんでしたよ…」

憔悴しきった表情で語るC氏は、B勘業者の甘言に誘われるまま、2013年から「節税」を繰り返した結果、税務調査によってその違法性が発覚し、現在約2億円分の所得隠しの疑いで告発されようとしている。

公益性のため、ここでは実在するB勘業者名を実名で挙げ、その手口を広く知らしめておきたい。業者名は「インテグラル株式会社」(代表取締役 松浪雄一郎)。松浪雄一郎は「松浪健四郎元議員の親戚だ」と名乗り、C氏に近づいてきた。
(現在同社Webサイトは閲覧できない状態となっており、松浪雄一郎に対する取材についても返答がない状況である)

C氏の証言によると、B勘業者の手口は次のようなものであった。

(1)節税効果のある保険商品

当時、とある外資系生命保険会社の商品を組み合わせて契約すると、支払保険料以上の代理店手数料がキックバックされるキャンペーンが存在しており、C氏も契約していた。

ただ保険料が少々高額であったため、契約したくともできない人が存在していた。B勘業者はそこに目をつけ、C氏にこのように提案したのだ。

「我々が『入りたいけどお金がなくて入れない人』をとりまとめている。まとまったお金を出してくれれば彼らを契約させ、キックバックを得、後で1割増しにして返す」

いかにも怪しい話で、C氏も最初は断っていたのだが、最後には折れ、「試しに300万円だけ…」と渡してみた。すると、本当に後日330万円のお金が戻ってきたので、取引を進めるようになったという。

(2)高額の領収書

次にB勘業者が提案してきたのが「領収書買取」であった。方法はこれまでに述べてきたとおり。このとき、業者が提示してきた手数料割合は「8%」だったという。業者が仲間のネットワークを用いて、実際に使用した本物の領収書を取りまとめて持参してきた。

その金額は合計で5,000万円分にものぼる。業者の懐には、400万円の手数料が入ったことになる。

(3)架空取引

そして業者が持ちかけてきたのが、赤字会社を隠れ蓑にした「架空取引」であった。

B勘業者側が、いくつかの実体ある赤字会社をとりまとめ、A社から架空の業務を受注する。A社の発注は経費扱いになるので、一定割合(10%程度)の手数料を支払えば、A社は税金支払いを圧縮できる。そしてB勘業者側は、手数料分が丸儲けになるという仕組みだ。(手数料を差し引いた残りの金額は、発注したA社代表のC氏に現金で戻される)

それぞれ名目は「広告費」や「システム構築費」、「SEOコンサルティング費」などとし、発注先会社の事業内容に合致したものになっている。このような業態は商材が「モノ」ではなく無形の「サービス」であるため、税務署としても確認のしようがなく、発覚しにくいのだ。

そして、1社に絞らずに複数の会社に分散させて発注するのは、発覚リスクを減らすためと、特定の会社が受注しすぎてウッカリ黒字を出さないためだ。もし黒字が出たとしても、それら受注先企業の奥には大赤字の会社がいくつか控えており、黒字はそこに流す仕組みになっていた。総体として利益を吸収し、何が何でも税金は払わないという魂胆なのである。

C氏は語る。

「架空取引のことは、顧問の会計事務所も知ってました。会計事務所の見解では、『相手方(B勘業者)が売上経費をきちんと記帳して、決算までやっているなら問題ない』ということだったので、何の疑いもなくやってたんですよ。そしたら、後から税務調査が来てダメだと。最初からダメと言われてればやらなかった」

このような形で、結局C氏はのべ2億円にものぼる所得をB勘業者のもとに流したのだった。「節税(=合法)」のつもりで…

しかし、この仕組みはあっけなく破綻してしまう。業者の説明では「複数の会社に分散させてリスクを減らす」ことになっていたはずなのに、実際は最終的に同じ会社にお金が流れる形になっていた。しかもその会社に赤字等がなく、無申告だったという実に杜撰な構造であったため、税務署の知るところとなってしまったからだ。しかもB勘業者の経営者自身が自分の名義でお金を引き出していたことが発覚し、アッサリ観念した経営者がA社とC氏の名前を出してしまったのだ。

一連の取引が原因となり、A社とC氏は国税局の査察と厳しい取り調べを受け、本年3月に起訴されている。

筆者は、松浪雄一郎がB勘業を始める前に一時在籍していたWeb広告会社の経営者D氏に接触することができた。D氏は松浪雄一郎についてこのように語った。

「松浪健四郎議員の身内であるという話は初耳。彼(松浪雄一郎)とは数年間一緒に仕事をしていたが、そんな話題は一度も彼の口から出たことはなかった」

「彼は結局体調不良という理由で当社を辞めてしまい、当時は何の疑念も持たなかったが、今となってはいろいろと繋がることがある。在籍時に、私に対しても節税効果のある保険商品を勧めてきたことがあった。恐らくその頃から、どこからかノウハウを得て、個人的にB勘業の活動を開始していたのだろう」

「倫理観よりも、自らの強い思いを優先して突き進んでいくところが当時からあったかもしれない。根っからの悪人ではないと信じたいが… きちんと罪を償って、出直してほしいと願っている」

会計事務所が脱税を提案!?

「節税」のつもりでやったことが、そのような違法な「脱税」にならないようにアドバイスを与える存在が、「税理士」や「会計士」だ。しかしA社のケースでは、同社の顧問として携わっていたO会計事務所が違法性について指摘をせず、長期間にわたって問題ある取引を実質的に黙認していた。そればかりか、会計事務所自ら、違法性が疑われる取引を指導していた疑惑がもたれている。

先ほど、「A社が所得隠しの疑いで告発された金額は2億円」と述べたが、このうちの5,000万円分はなんと「会計事務所の提案によってなされたもの」だという。

・架空のグループ間取引4,000万円
決算前、A社のグループ内に4,000万円の赤字の会社があったため、「その会社とグループ間取引することによって利益を消せる」と会計事務所から提案があった。結果的に、「太陽光に関するコンサルティングをおこなった」という名目で架空取引をおこなった。

・架空の旅費交通費1,000万円
会計事務所職員から「御社の規模なら、毎年200万円の旅費交通費を計上しても問題ない」と提案があった。C氏は「何か特別な控除枠のようなものがあるのか… とくに問題ないなら…」と考えて任せていたが、実際は架空の旅費交通費を計上するという手口であったことが判明した。

企業税務に詳しい、西村税理士事務所の税理士西村新一氏はこのように語る。

「会計事務所が黙認していたとはにわかには信じがたい。我々税理士は、納税義務の適正な実現を図ることを使命とし(税理士法1条)、不正に税を免れることにつき相談に応じてはならず(税理士法36条)、これに違反した場合には税理士業務の停止・禁止の処分を受ける(税理士法45条)ことになるからだ」

当該会計事務所も一連の取引に関与していたものの、特別な利得を得ていないということで、刑事告訴はされていない状況だ。しかし、国税の税理士懲戒処分の部門が現在調査を進めている段階とのことであった。筆者は当該会計事務所に取材を申し入れたが、期日までに返答はなかった。

いずれにせよ、B勘業者との取引は非合法行為であり、発覚した場合は厳しく罰せられる。実際、過去には大阪の不動産会社がB勘行為によって法人税法違反と所得税法違反の罪に問われ、懲役1年2ヵ月罰金1千万円の実刑判決を受けている。

そして今般、C氏と松浪雄一郎に対しても有罪判決が下った。C氏は懲役1年、執行猶予3年、罰金1,150万円。松浪雄一郎は懲役8か月、執行猶予3年、罰金900万円であった。
読者の皆さまにおいても、これは対岸の火事ではなく、身近に起こり得ることなのだ。怪しげな取引には近づかないことをお勧めしたい。

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